「自分史つづり」
「自分史つづり」
☐“自慢史”と“自分史”
私は、写真愛好家とのかかわりが深い。写真教室や撮影会、セミナーや講演会などを通し、写真愛好家の方々の写真人生をサポートするというかかわりである。そこでは、写真を上達させるための技術論や精神論とともに、“自分史つづり”の普及活動に力を注いでいる。この活動は2000年を過ぎた頃からで、かれこれ20年近くになろうとしている。
私は、写真人生を豊かにするためには、“自慢史”と“自分史”の二つが必要であり、それはまさに車の両輪と考えている。写真を楽しむ人のほとんどは、自分の自慢の作品や力作を発表し、第三者に認めてもらいたい、褒めてもらいたい、あるいは自慢したいと願っている。私はそのための発表(個展・グループ展、コンテストなど)を、“自慢史”位置づけている。モチベーションを高めるものとして、これはこれで必要だと思う。ただ、“自慢史”を最重要にしてしまうと、目標を達成したことでガクッとなる“目標喪失病”に陥ってしまいがちだ。また、他人との競争に陥って疲れてしまうことにもなりかねない。事実、私はそのような人をたくさん見てきた。
そこで重要なのは、目標喪失病に陥ることのない目標を持つことである。それが“自分史”だ。ただ、一般的に世の中で言われている自分史は、生きているときに作成して発表するものであり、私の分類ではそれは“自慢史”の一形態ということにる。私が提案する“自分史”とは、“自分の人生を総括し、この世に生きた証をつづる遺言書”のようなものだ。そしてそれは、一周忌の引き出物として、自分を偲んでくれる人々に贈呈してはどうか、というのが私の提案である。この位置づけでは、その取り組みはずっと続くものであり、“自慢史”のように目標達成感によってガクッとなることはない。また、“自分史”という崇高な目標を持つことで、“自慢史”はその一里塚という位置づけになり、肩の力も抜けるという嬉しい二次効果もある。
☐“自分史”の内容
自分史は、いわゆる写真集ではない。自分という人間がいかに写真を楽しむことができたか、自分はどのような人生を歩むことができたか等を、見栄などのベールを脱ぎ棄ててつらつらと吐露するものである。その内容は、大きく「作品編」と「私の人生編」の二部構成が考えらる。
さて、「作品編」に組み入れる作品はどのようなものか。写真集ではないので、テーマやジャンルは定めずに、感動の大きさというものさしで選んでいく、という考え方で良いのではないか。今もし病に倒れたならば、自分自身を励まし、そして生きる希望を与えてくれる作品はどれか、今、この世を去るときがきたならば、この写真が撮れて本当に良かったとしみじみ思える作品はどれか、という選び方である。それは、決してコンテストに入賞したような作品とは限らないはずだ。例えば、本当に苦労してようやく撮れた作品や、大切な思い出が詰まった写真などが入るだろう。いずれにせよ、第三者が評価したものではなく、あくまでも自分自身が感動できるかどうかというものさしで判断するのが“自分史”の作品だと思う。自分が感動し、自分を励ます作品を、毎年ひとつずつ増やしていくことが重要な課題となるわけである。
また、作品には、ひとつひとつ「作品への思い」を書き綴りたい。写真集の作品解説ではないので、なぜこの作品が自分にとって大切なのか、感動の根源は何か、何が自分らしいか、などの心の吐露を自由にりべたい。
次に、“自分史”を構成するもうひとつの要素として、「私の人生編」を設けたい。それは、生まれたときからの自分の歴史である。いかなる時代に、どこで生まれ、いかに生きたか。また、自分にとって人生の重要な事柄は何だったか、助けてくれた恩人の方々のことなども綴っておきたい。人生の足跡を日記のように綴っても良いし、年譜のように記述してもかまわない。
さらに、自分の両親や先祖の事柄を述べても良いし、家系図などを掲載するのも価値があろう。子どもや孫へと引き継がれるように、空欄を設けるのもひとつのアイデアである。両親や祖父母などから引き継いだ生活の知恵なども、自分にとっての文化遺産だ。家族の写真や思い出深い写真なども、この“私の人生編”では貴重なものとなろう。
☐“自分史”の製作の流れ
①撮影期間を算定する
今の自分の年齢、健康状態や体力などを考えて、あと何年元気で撮影をすることができるか。7年なのか15年なのか。そのおおよその期間を考えよう。それが、自分にとってかけがえのない大切な時間だ。そしてこの“撮影期間”は、毎年年末に見直すことが必要だ。益々元気で上方修正をする人もいれば、病気などで下方修しなければならない人もでてくるからだ。
②今後の撮影計画を立てる
前述したように、自分史に収める作品は自由だ。もちろん、被写体を限定して撮影に取り組んでいる人は、テーマを設定して自分史の作品作りに邁進しても良い。そうでない人は、今後の写真人生に悔いのないように、撮影計画を立てたい。毎年年末に、来年及び再来年の計画を立てていこう。いずれにしても、焦ることなく、気負うことなく、心をやわらかにして、出会いの風景に心を震わせながら作品を生み出していくように心がけたい。
③「私の人生編」も併行して進める
撮影と併行しながら、自分史のもうひとつの「私の人生編」も綴っていきたい。あまり大上段に構えずに、日記のように自分の心に対峙してはどうだろうか。とつとつと語るもうひとりの自分の話を聞くように、飾らずに書き留めていけばよいと思う。決して、プロフィールではないのだ。
④折り返し時点で、原案を作る
①で算定した期間の半分ほどところで、とりあえず原案を作ってみよう。作品を並べ、そこに自分の人生が、自分という人間そのものが凝縮されているか、確かめよう。もちろん、「作品への思い」や「私の人生編」も含めて全体をじっくりと眺めよう。
そして、自分史の“版の大きさ”や“頁数”なども検討しよう。ひとつに絞り切れないときは、複数案を作ってみてはどうか。分からないことがあったならば、見積もりを取る予定の出版社などに相談をしながら進めたい。
⑤見積りをとり、製作会社や製作部数を予定する
原案ができたならば、見積もりを取ってみよう。今はとても恵まれている時代で、自費出版を取り扱う出版社や書店がたくさんある。できれば複数の見積もりを取り、比較検討をしてみよう。
その結果に基づき、①製作会社、②版型や装丁、③部数、④制作費をおおまかに予定しておく。なお、数年おきに見積もり内容に変更がないか、確認していくことも必要になろう。
⑥遺言状を作り、自分史製作の担保を確保する
もうひとつ、とても大切なことがある。それは、遺言状の作成し、制作費の担保を確保することだ。遺言状には、“自分史の製作依頼”“製作会社及び部数”“通夜の時の引き出物にする旨”“制作費の出所”などをしたため、「原案や作品データ(あるいはポジ)、文章のデータ」などと一緒にしておきたい。
⑦内容を更新していく
あとは、毎年充実した写真人生を送りながら、新たな作品の追加または入れ替えの作業を続けよう。また、「私の人生」編を書き足したりする作業も必要だ。体が動く間は、目標に向かっていつまでも邁進する日々が続く。大切なのは、この壮大な事業に向かって一日一日を大切に生きていくこと、である。