「写真のリアリズム」
「写真のリアリズム」
写真とは何か
□修正し過ぎて掲載禁止!
この本の原稿を書き始めてから、数日たったある日の朝のことである。インターネットで主なニュースを閲覧していると、「美し過ぎて掲載禁止に!」という衝撃的な見出しが目にとまった。
それは、イギリスにおける化粧品の広告写真を巡る騒動であった。ある化粧品会社がジュリア・ロバーツをモデルに採用した広告を出したのだが、国会議員のひとりから「デジタル処理によって修正されていて非現実的」という指摘がなされた。それを受けたイギリスの広告基準局(ASA)が「広告画像が商品の効果を正しく表していると結論づけることはできない」として、広告写真の掲載を禁止する決定を下した、というのだ。
□画像処理の落とし穴
化粧品会社は、「肌を明るく、影をなくし、目の周りにシェードを入れ、唇をなめらかに、眉を濃くして いる」という点は認めているらしいが、まさかそれが〝非現実的〟という判断で掲載禁止になるとは思っていなかったようだ。
私は、画像処理には禁断の魔力がある、と常々思っている。もう少しきれいに美しくと願って加工処理をしているうちに、実物の被写体から次第にかけ離れていってしまうものだからである。例えば夕焼けや朝焼けの画像処理をするとしよう。実際の現場ではさほど焼けなかったとしても、人は皆、もう少し赤くもっとドラマチックにと手を加えていきたい衝動と闘うことになる。そして、その誘惑に勝てる人が、どれほどいるだろうか。
□写真はリアリティが大切
広告写真にさえ求められた〝リアリティ〟という問題は、混沌としつつあったデジタル写真の方向性に警鐘を鳴らしたようだ。私たちは写真表現において、とりわけネイチャー作品においてあらためて被写体のリアリティを大切にしなければならない。そのためには、作品の仕上がりだけではなく、被写体に向き合ったときのリアリティをも大切にすることが必要だと痛感する。あとからの画像加工に期待せず、シャッターをきった瞬間に作品を仕上げる、という決意と哲学を持つことが重要ではなかろうか。
『デジタル露出の極意』(日本写真企画刊)より抜粋