2012年9月25日 火曜日
「お昼、できましたょぉ。よかったら食べていって下さい。」
彼岸花を撮影している私たちに、Fさんの奥さんからやさしい声がかけられた。「ありがとうございます。今、お伺いします。」と、少々戸惑いながら私は返事した。機材をしまい、私に同行している写真愛好家のKさんと一緒に、恐縮した面持ちで玄関に入った。すると、目の前のテーブルに、暖かい昼ご飯が用意されていた。
ここは、熊本県の山の中。幽玄の風情漂う山間に、一件の古びた民家がぽつんとあった。今は千葉に住んでおられるFさんの実家だが、家を継いだお兄さんが亡くなられてしまったので、9月から10月初旬に掛けて戻ってくるという。その一番の目的は、“彼岸花”の手入れらしい。家の周囲には、自生の彼岸花がそこかしこに咲き乱れ、いわゆる彼岸花名所とはひと味もふた味も違った情感が漂っていた。それにしても、初めて訪れた私たちに昼ご飯を振る舞ってくれるとは、全国を旅する私でも意表を突かれるもてなしだ。その後もしばらく撮影を続け、やがて丁寧にお礼を申し上げて次の撮影地に車を走らせた。
今回は、9月17日に東京を発ち、奈良、愛媛を周り、九州は大分・熊本・佐賀・福岡各地の彼岸花と棚田を満喫する撮影行であった。一週間の充実した撮影を終え、新門司発のフェリーの中で暗い海を見つめたとき、山口百恵の“まんじゅうしゃかぁぁ”という哀愁を帯びた歌声が聞こえてきた。