2015年8月19日 水曜日
この一年、写真のチカラについて見解を求められることがけっこうあった。「いい写真とは何か」「審査における選考基準はどういうものか」「優れた作品の条件とは何か」など、ニュアンスに差はあるが、写真のチカラについて問われるものであった。記事となって掲載されたり、セミナーで話したりしてきたが、このブログでも少しばかりつぶやいておきたいと思う。
ひとことでいうと、「写真=作品を鑑賞する(審査する)人をどれほど感動させるチカラがあるか」が、共通したモノサシとなろう。ただ、チカラの具体的な構成要素は、写真のジャンルによって部分的に異なってくる。ここでは、いわゆる“ネイチャー部門”について述べてみたい。
私は、構成要素の関係性を次のように考えている。
「写真(作品)のチカラ」=(技のチカラ+被写体のチカラ+創造性のチカラ)×魂のチカラ
第一の要素は「技(撮影・仕上げ)のチカラ」であり、その内訳は、画面構成・フレーミング、露出、被写界深度、シャッター速度、カメラ位置、画質(ハレーションの問題なども含む)、色調・階調・コントラスト、などとなろう。
第二の要素は「被写体のチカラ」であり、内訳としては被写体の魅力、シャッターチャンスの難易度、被写体の新鮮度、などがあげられる。“被写体の魅力”とは、色彩や造形の美しさ、迫力やスケール感、そして希少性などである。素材としての“シャッターチャンスの難易度”とは、どれほどの確率で出会うことができるかという“運”と“努力”の尺度である。
そして“被写体の新鮮度”とは、被写体としての目新しさはどうかという尺度である。たとえ被写体としての魅力があり、シャッターチャンスの難易度が高いものであっても、既に何度も発表されている場合は、被写体の新鮮度は低くなろう。
第三の要素は「創造性のチカラ」であり、具体的には、着眼点や発想の独創性、作品の物語性、などである。“着眼点や発想の独創性”とは、多くの人を「おっ」と思わせる斬新な視点であり、その人の感性や個性に基づくものであったり、熱心な研究の成果であったりする。また、“作品の物語性”とは、単に美しいとか迫力があるなどだけではなく、歴史や伝統、生命、環境などのひと味違う物語を内包することによるチカラである。
そして第四の要素は、「魂のチカラ」と考えている。シャッターをきる本人が、描こうとしている被写体に対してどれほど感動し、どれほど心を込めてシャッターをっているか、という視点である。端的にいえば、どれほど作品に魂を込めているか、である。例えば、「ありがとう」という感謝のことばの重みは、声としての明瞭さや大きさなどではなく、心の中でどれほど感謝しているかによって相手に伝わる重みが変わるのと同様である。
以上の四つの要素が融合し、個々の写真=作品のチカラとなって第三者に訴えるというのが、私の考えである。