2013年10月14日 月曜日
「ただいまぁ」といいながら、彼はニコニコしながら戻ってきた。そして驚いたことに、何と「ノコギリクワガタ」を手にしているではないか。
彼とは、写真家・森脇章彦さんである。森脇さんとの出会いは、今から四年ほど前に遡る。私の事務所のモニターを最適なものにグレードアップするというある写真雑誌の企画があり、その指南役として登場したのが森脇さんであった。それ以来、公私ともに深いお付き合いをさせていただいている。
彼は、すごい。デジタルカメラの研究に日本でいち早く本格的に取り組み、今ではデジタルカメラやモニターなどの基本設計にも関わっている。パソコンの造詣も、たいへんに深い。また、記憶にあるマーガリンの箱の向日葵の写真が、彼の作品であったことも驚きだった。だがそれ以上に、アフリカの秘境の地で現地人にとらえられ、危うく殺されそうになったところを栄養ドリンク一本で切り抜けたというエピソードなどを聞かされると、本当にすごいなぁと私は感嘆する。
私の事務所のパソコンは、デスクトップ型が二台、ノートブック型が一台という体制だが、その重要なメンテナンスや更新は、彼が担ってくれている。今回は、OSがWindowsXPという古くなったサブのデスクトップパソコンを、新しいものに切り替えるという作業であった。市販されているパソコンを購入し、その組み込まれているOSを変え((Windows8からWindows7に)、基本ソフトを動かすドライブをSSDに変え、その他諸々に手を加えて、使い勝手と性能を格段に高めてくれた。パソコンにさほど詳しくない私には到底できないことを、彼はいとも簡単に成し遂げてしまう。
今回(7月上旬)も泊まり込みによる作業になったが、夜の帳が降りた頃に、ある部品がひとつ必要になった。彼は、自分のアシスタントの一人に連絡を入れ、今から購入して届けるようにとの指示をした。その後に彼は、“一服してきます”と言って、外に出て行った。それから十五分ほど経過した頃に、冒頭の“ただいまぁ”となったのである。
「そのクワガタ、どうしたの?」
「いや、この団地の中で採ってきました」
「えっ? 偶然に見つけたの?」
「いえ、私の感覚で、この団地の木にクワガタがいると思ったので。いや、さきほど私がアシスタントに買い物を頼んだでしょ。実は、彼の小さいお嬢さんが明日誕生日だと言うんですよ。それで私も何か喜んでもらえるプレゼントをしたいと考えたら、クワガタがいいなと思いついたんです」
あらためて申し上げるが、ここは山の中ではない。東京都東村山市であって、駅から徒歩十分の市街地である。この地に十年も住んでいる私が、未だに見たこともないノコギリクワガタである。それが居ると確信し、たった十五分で捕獲してくるという世にも不思議な物語。そして、アシスタントのお嬢さんへのすてきなプレゼントを贈りたいという、彼の優しい心遣い。いやぁ、今回もまた、私は森脇章彦さんに驚かされた。
※ そのお嬢さんはノコギリクワガタのプレゼントをたいそう喜び、“クワノスケ”と言う名前を付けて、いまでも大切に育てているという(このつぶやきを書いている10月13日現在)。